今回新しく登場したオレキシン受容体拮抗薬「ベルソムラ」は、従来の不眠症治療薬とは働きが異なる薬剤です。これまでは、神経活動を抑制するGABAの受容体に作用するものが主流でした。GABAは脳に最も広く分布する抑制性の神経伝達物質です。GABA受容体作動薬は睡眠にかかわる機能だけでなく、筋緊張、記憶、運動能力などにも関与し、これら脳の様々な機能を下げ、脳全体を鎮静させることで、眠りをもたらします。

一方、ベルソムラは、覚醒/睡眠システムに働き、眠りたいと思っている時に覚醒を維持しているオレキシンをブロックすることで、覚醒から睡眠へとスイッチが切り替わり、生理的な睡眠に近い効果を得ることができると考えられています。

「眠れない」という症状は、心理的な要因、精神疾患、身体的要因、生理学的要因など様々な原因から、覚醒と睡眠のバランスが崩れており、眠りたい時に「覚醒が亢進」した状態だと考えられます。

こうした背景から開発されたベルソムラは、オレキシンの2つの受容体(OX1受容体とOX2受容体)の選択的拮抗薬で、オレキシン産生ニューロンから覚醒システムへの情報伝達を可逆的に阻害します。

これにより、オレキシンによる覚醒システムの活性化が抑制され、覚醒/睡眠システムのバランスが、睡眠システム優位になることで、睡眠を誘導します。

ちなみに「ベル」はフランス語で「美しい」という意味、「ソムニア」はラテン語で「眠り」という意味ですので、「美しい眠り」という意味になります。ベルソムラで美しい眠りを提供したい、という想いが込められているのでしょう。

(U)