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いつの間にか日中は汗ばむような季節となりましたが、皆さま如何お過ごしでしょうか?ストレスは、現代社会の中では避けて通れないものです。そこで今回は、ストレスが原因とも言われる病気の1つ、「過敏性腸症候群(IBS)の治療薬:イリボー錠」について、書いてみたいと思います。

その前に、IBSについて少し触れてみたいと思います。
IBSは、下痢や便秘、腹部の不快感、お腹がゴロゴロ鳴る腹鳴といった症状が長期間(3ヶ月以上)、慢性的(月に3日以上)にみられる疾患で、下部消化器の検査では炎症や潰瘍といった目に見える病変、すなわち、器質性の異常が認められないにも関わらず、便通異常が生じます。
【主因】精神的ストレスだと考えられています。
【分類】下痢型・便秘型・混合型の3つ。腹部膨満感が強いガス型を含める分類もあります。
老若男女問わず発症しますが、若年層に多く、また男性では下痢型が多いとされています。

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 それでは、治療薬について。

★ラモセトロン(商品名:イリボー錠)・・・日本では2008年に発売。5-HT3受容体拮抗薬。

「ストレスセロトニン説」(脳腸相関」と呼ばれるメカニズム)に基づいて開発されました。
ストレスを感じるとその情報が、脳の視床下部に伝えられます。視床下部は、ストレスに応答する場所でもあり、その中の室傍核と呼ばれる部位から副腎皮質ホルモン放出因子(CRF)が分泌されるようになります。…と、ここまでは、脳内での出来事。
しかし、ここで「脳腸相関」が出てきて、舞台が腸に移ります。CRFは脳幹から遠心性に伸びる副交感性の神経を刺激、これは腸の平滑筋を支配して運動を抑制する神経なので結果、下部消化管の運動が誘発されます。ここに、セロトニンが関与しているという流れになります。消化管には、セロトニン5-HT3受容体が分布していて、セロトニンの結合により知覚過敏による腹痛が生じます。また、消化管の蠕動運動や水分分泌が亢進し、これは下痢を引き起こします。脳腸相関は「相関」なので、往路があれば、復路もあります。往路の作用などで腸が伸展すると、今度は腸粘膜のクロム親和性細胞(EC細胞)が刺激されて、そこからセロトニンを分泌。このセロトニンが求心性神経終末のセロトニン5-HT3受容体と結合し、復路となる大腸痛覚系を通じて、痛みの信号を脳に伝達します。これが、腹痛を感じるメカニズムです。
イリボーは、脳腸相関の往路で流れてきた信号を腸管内の水際でくい止めることにより、消化管の蠕動運動や水分分泌を抑制し、下痢型のIBSの症状を改善します。しかも、腸管の5-HT3受容体は復路の入り口でもありますので、IBSの腹痛も改善します。

当初は、男性における下痢型IBSに適応が限定されていました。
これは、承認申請時の臨床試験(イリボー5μg、11回朝食前)で、
・女性の被験者が少数であった→下痢型IBSは、男性患者が多いと言われていたため
・女性の被験者で便秘の副作用が多かった→女性IBS患者は月経等により下痢/便秘のサイクルがある患者が多い
といった原因があったためと言われています。

その後、男性の半量で治験を実施したところ、女性に対する有効性、安全性が確認できた事から再度申請を行い、20155月に女性に対する下痢型IBSにも効能・効果が追加されました。ただし、女性に対する用法・用量は、男性の半分となっていますので注意が必要です。
IBSは、精神的なストレスだけが原因ではないですが、避けられるストレスであれば避ける方法を、また、避けられないストレスであれば、自分が楽になる考え方や発散の仕方を探っていき、ストレスと上手に付き合う方法を見つけていきましょう! 


 

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(T)