気の早い話ですが、夏の感染症について少し触れさせていただきます。そもそも、なぜ夏に感染症が流行るのか、みなさんご存知でしょうか?
それは、暑さのために体力を消耗し抵抗力が落ちているからです。抵抗力が落ちると、細菌やウイルスに感染しやすくなります。
そこでお父さん!お母さん!今回のエンゼル日誌は小児科領域において夏風邪3大トリオである「ヘルパンギーナ」「手足口病」「咽頭結膜熱(プール熱)」についてご紹介させて頂きます。
感染は「病原体」「感染経路」「個体の条件」の3要素が揃うことで起こります。体力消耗による抵抗力低下は、この3つのうち「個体の条件」にあたります。感染症を予防する際には、この3つの観点から考えることが大切です。
ヘルパンギーナの症状
39~40℃の高熱が突然出ます。上あごの粘膜やノドの奥に水疱ができます。ノドが痛むので、つばを飲み込むことが困難になり、よだれが多くなったり嘔吐しやすくなったりすることがあります。乳幼児によく見られる夏かぜの一種です。まず最初に、似ていると言われるヘルパンギーナと手足口病の違いについてお話しします。
ヘルパンギーナと手足口病の違い
ヘルパンギーナと手足口病、双方とも流行が夏であり、かつ、水疱ができる、発熱がある、というように症状も似ているため、医師であっても判断が難しい場合があります。では、どのような違いがあるのでしょうか。
初期症状としては、どちらもノドに水疱ができます。しかしご存知のとおり、その後、手足口病は手や足などに発疹が現れます。一方で、ヘルパンギーナの場合は、手や足に発疹は出ません。また、手足口病は37℃~38℃の熱で、発熱しない場合もありますが、ヘルパンギーナは39℃~40℃の高熱が突然出ます。簡単に言ってしまえば、見た目は派手でも子どもは元気な場合が多いのが手足口病、手足口病ほど見た目は派手ではないですが、子どもにとってつらいのがヘルパンギーナと言えるかもしれません。
代表的な感染症に関する情報を把握しておくことはとても大切なことです。必ず医師の指示に従って、子どものケアを行うようにしましょう。また、後述しますが、手足口病とヘルパンギーナにおける、感染拡大の防止やケアの方法は同じです。よって、保護者にとっては、双方の症状の違いを理解することよりも、双方に共通する感染予防法、ケアの方法などをしっかりと頭に入れて実行に移せることの方が大切だと思います。
ヘルパンギーナの原因ウイルス
主な病原体はエンテロウイルス属です。エンテロウイルスの「エンテロ」とは「腸管」を意味し、このウイルスはその名の通り腸管内などで増殖します。この中でも主に「コクサッキーA型ウイルス」がヘルパンギーナの原因となります。同じ血清型のウイルスには終生免疫(一生その病気には罹らない)となりますが、ヘルパンギーナを引き起こすウイルスは複数存在するため、再罹患することがあります。
ヘルパンギーナの感染経路
感染経路は手足口病とほぼ同じです。飛沫感染、接触感染、糞口感染(糞便から排出されたウイルスにより口を通して感染すること)により感染が拡大するので、以下に注意します。
●こまめな手洗い
●咳やくしゃみをする時には口と鼻をティッシュ等でおおう(またはマスクをする)
●(集団生活では)タオルの共用を避ける
●おむつ交換も注意深く行う
ヘルパンギーナの感染期間
こちらも手足口病と同じく、呼吸器や便からの感染力が強く、症状が治ったあとでも数週間はウイルスが排出されるので注意が必要です。便の取り扱いには、使い捨て手袋を使用しましょう。
ヘルパンギーナのケア
手足口病と同様に、ノドの痛みがあり、子どもが飲食を嫌がる場合があるので、脱水症状にはくれぐれも注意しましょう。食事はゼリーやプリン、そうめんなど、のどごしのよいものを用意してあげましょう。ヘルパンギーナを治してくれる薬は存在しません。わたしたち大人による温かなケアで、子どもが落ち着いて安心した環境の中で自らの力で治していくことが大切です。こうした、病気の原因に対してではなくそのときの症状を軽減するために行われる治療法を対症療法と呼びます。対症療法は子育ての上で一つの基本となります。
手足口病の原因ウイルス
主な病原体はコクサッキーウイルスA群や、エンテロウイルス71型などであり、原因となるウイルスは多種多様です。中でも、例年は主にコクサッキーウイルスA16(CA16)やエンテロウイルス71(EV71)が原因ウイルスとなっていますが、近年の爆発的な流行では、コクサッキーウイルスA6(CA6)が原因ウイルスの多くを占めているといわれます。例年と流行年との原因ウイルスの違いにより、症状にも違いが出ています。
これまでは子どもの病気として認識されていましたが、新たな原因ウイルスが出現したりと、大人でも重症化例が出る可能性があるといわれています。また、発疹の様子から、水痘(水ぼうそう)との見分けが難しいケースもあります。
手足口病の感染経路
飛沫感染、接触感染、糞口感染(糞便から排出されたウイルスにより口を通して感染すること)により感染が拡大するので、以下に注意します。
●こまめな手洗い
●咳やくしゃみをする時には口と鼻をティッシュ等でおおう(またはマスクをする)
●(集団生活では)タオルの共用を避ける
●おむつ交換も注意深く行う
感染力が強く、病児保育施設では隔離させることが望ましいです。ただし、麻疹や水ぼうそうが「出席停止」となるのに対し、手足口病は「出席停止」とはなりません。しかしながら、登園の目安はかかりつけ医の診断に従い、登園届に保護者が記入し提出します。
手足口病の感染期間
症状がおさまった後でも、呼吸器からは1~2週間、便からは2週間~4週間、ときには数ヵ月間ウイルスが排出されることがあるので注意しましょう。便の取り扱いには、使い捨て手袋を使用しましょう。
手足口病のケア
残念ながら手足口病には「この薬を飲めば治る!」というような、特効薬はありません。薬を飲むとしても、痛みを和らげる鎮痛剤などのみです。ケアをしつつ、自然に治癒するのを待ちましょう。脱水症状にはくれぐれも注意しましょう。口の中の発疹が痛むために、食事や水分を取りたがらなくなることがありますので、脱水症状を起こさないよう十分な水分補給を行い、柔らかく刺激の少ない食事を用意しましょう。かゆみを伴うので、部屋を暖め過ぎないように、また直射日光を浴びないようにしましょう。
咽頭結膜熱(プール熱)の感染経路
「プール熱はプールでしかうつらない」とお思いのそこのお父さん、お母さん、要注意です。もちろんプール以外でもプール熱がうつることはあります。感染の3要素である「感染経路」というものを思い出してみてください。
感染経路には、「飛沫感染」「空気感染」「経口感染」「接触感染」があります。個々の感染症に関して、その病気はどの感染経路で感染するのか、を押さえてそれに応じた対策をしなくてはなりません。この「プール熱」の場合も、感染経路をしっかりと理解していれば、プール以外の場所でもうつることがあることを理解できるかと思います。とはいえ「プール熱」という呼び名のとおり、プールでの感染がとても多いのが「咽頭結膜熱」です。プールが大好きな子どもたち。子どもたちが楽しく遊べるよう、「プール熱」の予防法から、特徴までしっかりと学んでいきましょう。
プール熱の症状
前述のとおり、高熱が続きます。夏かぜは一般的に普通のかぜに比べて発熱が長く続きます。プール熱の場合、39~40℃の高熱が出て、5日前後続きます。加えて特徴的なのが、結膜炎です。目が充血したり、痛みを伴い、目やにや涙が出ます。また、のどの痛みもあり、下痢や嘔吐を伴うこともあります。
プール熱の感染経路
プール熱はアデノウイルスが原因です。潜伏期間は1~2週間で、「飛沫感染」と「接触感染」により感染します。ここで、「接触感染」について少し説明しましょう。接触感染とは、体液や血液などの感染源に触れた手で、目や口などの粘膜に触れることで感染することを指します。それでは、プールでの感染はどのようにして起こるのでしょうか。それは、ウイルスを含んだプールの水が目や口に触れることで体内にウイルスが入り込むことにより起こります。後述しますが、アデノウイルスは便からも排出されます。よって、ウイルスを持った子どもがトイレに行った際に十分に便をふき取らないままプールに入ってしまうと、そこから排出されるウイルスがプールの水を通じて体内に入り込み、感染してしまうのです。このように、アデノウイルスは「接触感染」により感染が拡がるので、プールの水だけでなく、感染している人が触れたもの、たとえばドアノブやタオルなどに他の人が触れることでウイルスが体の中に入り込み、感染することもあります。プールでのみ感染が起こるというわけではないのです。
プール熱の予防
「接触感染」が拡大の原因になることを考えて予防を行いましょう。手洗いやうがいでウイルスを洗い流すことはもちろんのこと、プールに入る場合には、前後にシャワーをしっかりと浴びて、目もしっかりと洗いましょう。また、タオルの共用も避けましょう。感染の期間は3~7日程度ではありますが、便からは数ヵ月間排出されることもあるので、次亜塩素酸ナトリウムでしっかりと消毒をしましょう。
プール熱のケア
以前紹介した2つの夏かぜと同様です。特効薬は無いため、子どもが気持ちよく過ごせるように工夫し、脱水症状には気を付けましょう。感染症のことを勉強する際には、個々の感染症について学習することはもちろん大事ですが、すべての感染症に共通する根幹について理解しておくことも大切です。今回の場合で言えば、「感染経路」、つまり、そもそもどのようにして感染は起こるのか、ということを理解しておけば「プール熱」という言葉に騙されることもありません。プール熱が「接触感染」で感染することが分かっていれば、「なぜ」プールでの感染が起きやすいのか、「なぜ」プールの後にシャワーや目洗いをしっかりとしなければいけないのか、ということが理解できます。
以上、夏風邪3大トリオについてお話しさせて頂きましたが、乳幼児、小児をお持ちのお父さん、お母さん、この話参考にしていただければ、とても幸せに思います。
(さんごう店 O)